アーティストと本 - 尾崎世界観の日常と本音を垣間見る回 その2 –
アーティストと本 - 尾崎世界観の日常と本音を垣間見る回 その2 -
◆ "アーティストと本"とは?
こんにちは。Evening Music Recordsインターン生のずなこです。絶賛大学生中の20歳です。Evening Music Recordsは音楽関連のほっとなニュースを提供している訳ですが、ありがたいことに初の(ゆるゆる)連載企画を開始することになりました。
連載名は、アーティストと本。音楽アーティストの著作を毎週読んで感想を書き溜めていくというコラムです。考えや趣向を音楽で伝えることのできるアーティストがなぜわざわざ書籍を作るのだろう。そこには音楽では伝えきれなかった何かが潜んでいるはず。そこで著作と楽曲を比較して共通する場所、相違している場所を見つけ、ほんの少し、輪郭だけでもそのアーティストのことを理解した気になろう。そんなことを考えました。
第2回は、前回と同様クリープハイプのボーカル尾崎世界観さんを取り上げ、”尾崎世界観の日常と本音を垣間見る回”としました。どうぞお楽しみください。
◆ “祐介”は、世界観のはんぶん
ここからは、小説「祐介」メインのお話。冒頭ではこの小説について、過去を織り交ぜているという意味で半自叙伝であると書きました(一般的にもこう言われている)。読んでみると正確には過去と現在、そして事実と虚構を配合しているという意味での半自叙伝なのだと解釈できました。
・バンドのベースとドラムが突如として姿を消してしまった話
・スーパーでのアルバイト
・ライブハウスでのチケットノルマ
・一攫千金を狙っての遠征ライブ
大筋は尾崎さんの過去の出来事の羅列のようなので最初は「ストーリー展開も含めて、完全なるエッセイ本にしてみてもいいのでは...?」と思ってしまいました。でも、そうしなかったのは、彼の”素直じゃなさ”が関係していそうです。自分の身の上話は嘘とごちゃ混ぜにして小説という芸術作品として味わってもらいたかったのかもしれない。小説の中なら嘘でも本当でも関係なく受け止めてもらえるから。読み進めていくうちにそう感じ始めました。作品終盤にはこんな一節も。
“あなたの詩は比喩が多いでしょ?一度聴いただけですぐわかる程に。だから古くなるんだって。素直にまっすぐに、っていうのは基本じゃない?何をするにしても。だからね。どうしてもそうしたいなら、ある程度音楽でやってから、小説でも書けばいいじゃない。どこかの編集者にそそのかされて勘違いして、好きなだけ比喩を使って、小説でも書けばいいのよ。”
-2016年 文藝春秋出版 尾崎世界観 「祐介」より引用
◆ 捨てられない、飽きられない。ひかるものを探しつづける
よくよく読んでみると、「あれれ、これクリープハイプの歌詞じゃない?」と疑わざるを得ない部分があるのです。そこには尾崎さんの思う、フロントマンとしての在り方が書かれているような気がしてなりませんでした。
“ボーカルが笑い始めて驚いたの。本当に信じられないくらいに全然声が出てなくて。最初は驚いたんだけど、その歌を聴いていたら、嬉しくてたまらなくなって来て、気がついたら自分が叫んでいたの。なんか認めてもらえた気がして。CDで、繰り返し繰り返しバカみたいに聴き続けてた曲の高いところで、CDとは程遠い掠れた声で情けなく裏返るその声を聴いてたら、窓からいつも見てた何もない絶望的な風景を認めてもらえたような気がして嬉しくて。気がついたらステージに向かって叫んでたの。ありがとうって。... よかったら、また遊びに来てね”
-2016年 文藝春秋出版 尾崎世界観「祐介」より引用
この文章は主人公祐介が後に恋をする、風俗嬢瞳ちゃんが放ったセリフ。最後の、よかったら、また遊びに来てね という部分はクリープハイプの楽曲欠伸にも使われています。
“やっと気がついた時にはもう遅くて、残ったのは、今日あの人、大丈夫かな...最近声が全然出てないし...みるのも怖いけど、でも私はちゃんと見ていてあげないと...でも、これ以上ひどくなるようなら、もう辛くてついていけないかも知れない...そろそろ潮時なのかも...なんて言いながらライブに通う、修道院のシスター気取りの天から全て見てます的な客しかおらんくなるぞ、っていうことを言われて...ファンを疑うなとは言わないけど、ファンを信じるなよっていう締めの言葉に対しての俺なりの答えがそれでさ”
-2016年 文藝春秋出版 尾崎世界観「祐介」より引用
この部分は、楽曲「社会の窓」の2番で歌われていることと非常によく似ています。祐介が思い切って京都へと遠征に行った際に出会ったバンドマンの放ったセリフです。お情けで曲を聴いてもらうようなバンドには絶対になりたくない 尾崎さんの強い意思が垣間見えます。
今回も、お読みいただき本当にありがとうございました。次回は、星野源さんを取り上げさせていただきます。楽しみにしていてね。
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