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アーティストと本 - 星野源が大切にしていること。-
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アーティストと本 - 星野源が大切にしていること。-

アーティストと本 - 星野源が大切にしていること。- ◆ こんにちは。連載企画始めてます。 こんにちは。Evening Music Recordsインターン生のずなこです。絶賛大学生中の20歳です。Evening Music Recordsは音楽関連のほっとなニュースを提供している訳ですが、ありがたいことに初の(ゆるゆる)連載企画を開始することになりました。 連載名は、アーティストと本。音楽アーティストの著作を毎週読んで感想を書き溜めていくというコラムです。考えや趣向を音楽で伝えることのできるアーティストがなぜわざわざ書籍を作るのだろう。そこには音楽では伝えきれなかった何かが潜んでいるはず。そこで著作と楽曲を比較して共通する場所、相違している場所を見つけ、ほんの少し、輪郭だけでもそのアーティストのことを理解した気になろう。そんなことを考えました。 ◆ にわかさんいらっしゃいコーナー 星野源とは?結局、なにしてる人なの?どんな本書いているの?そんなハテナマークだらけになって、もうどうしようもなくてこのコラム読みたくないよー。ってなっちゃっているにわかさんのために説明を加えますね。 -星野源とは? 1981年生まれ。音楽家・俳優・文筆家として幅広く活躍中。2016年に発売された楽曲「恋」のミュージックビデオにあった恋ダンスは社会現象にもなりました。2012年にくも膜下出血を患い休養したことを期に音楽スタイルにも変化が見られるようになりました。 -なにをしている人なの? 上にも少し書きましたが、活動内容としては主に3つ。音楽制作・俳優業・ライター業です。2015年までSAKEROCKというインストゥルメンタルバンドを結成していたこともあります。 -どんな本を書いているの? 星野源さんは「そして生活はつづく」「よみがえる変態」など、自身の闘病経験や仕事に対する思いなどを赤裸々に語ったエッセイ本を多数執筆しています。 今回読んだのは2015年9月10日に初版出版されたエッセイ「働く男」、対談雑誌「星野源 二人きりで話そう」(2019年8月15日出版)の二冊です。 「働く男」の中では、「歌う」「書く」「演じる」それぞれの活動内容・仕事に対する思いが語られています。この本の出版の際にくも膜下出血倒れてしまったこともあって、働くことに対する考えの転換点になった作品でもあるようです。執筆時のことを振り返って後にコメントしている部分があるのですが、確かに別人のように見えて、興味深いです。 対して、「星野源 二人きりで話そう」は、星野源さんとゲストの対談を11回分まとめたもの。働く男では星野源さんの内側を覗くことができる一方で、この書籍では、星野源さんの他人との向き合い方を覗くことができました。 ◆ 今回のコラムコンセプトは...? 今回読んだ2冊の間には4年もの年月がある。制作方式も違う。それなのに、同様のメッセージを持つ文章が頻出するのです。星野さんが音楽をどう捉えているのか、作品に対してどのようなこだわりを持っているのか。特にこれらに関しては一貫したメッセージを見つけることができました。そこで今回は星野源さんが強調していたメッセージをつらつらと書かせていただくことにしました。 ◆ 音楽で世界は変えられない “今でもたまに、「音楽で世界を変えたい」と言う人がいる。僕は「音楽で世界は変えられない」と思っている。...国を変えるのはいつでも政治だし、政治を変えるのはいつでも金の力だ。そこに音楽は介入できない。...でも、音楽でたった一人の人間は変えられるかもしれないと思う。 -2015年 文春文庫出版 星野源 「働く男」より引用 あなたは、音楽に人生を変えられたことがありますか?私は、高校生時代BUMP OF CHICKENさんに沢山沢山救われました。話すことが苦手で、友達と話す時でも毎回緊張してしまうようなタイプだったので、授業以外の時間はあまり好きではなくて。誰とも話したくないのに、一人でいたくない弱い自分も嫌いで。それで学校帰り、うまく話せなくて泣いてしまったことがあるんです。そこで聞いたのがBUMP OF CHICKENさんの「プレゼント」でした。 “このままだっていいんだよ 勇気も元気も生きる上ではなくて困るものじゃない  あって困ることの方が多い でもさ 壁だけでいいところに わざわざ扉作ったんだよ -嫌いだ全部好きなのに” この一節を聴いた時に、今の気持ちをわかってくれる人がこの世にいるなら大丈夫。いつか自分の思いをきちんと伝えられる人になれれば大丈夫。と思えたんです。音楽が一人の人の気持ちを和らげたり、行動を変えることもある。これには私も同感です。誰しも、音楽に救われたことがあるでしょう。対して、音楽で世界を変えることはできない。文字通り死ぬ気で音楽を作り続けている星野源さんのいう、その言葉には生々しさを感じました。 だけど。でもでも。音楽で世界を救うことは無理かもしれないけれど、音楽の持つ大きな力は信じていたいなと私は思っています。 大きなライブ会場。大勢の人で同じ歌を歌っている瞬間。同じように涙を流している人を見た瞬間。多くのミュージシャンが素敵な音楽を量産している中で戦争は無くならないし飢餓もなくならないけど、国境を超えてサービスを届けることや考えを共有しあうことが容易である今なら、音楽で世界の何かが変わるかもしれないなぁと、わたしはよく、思うのです。 ◆ いつでもどこでも。ふー。力を抜こう これは、特にAERAの対談記事を見ていて思ったこと。この、力を抜くというのは、自分に対してだけではなく関わっている相手に対しても。力の抜き方に関しては勉強になることがとっても多かったです。 星野源の、「力の抜き方講座」-人と話す時編 力まずに話せるような環境作りを行うこと。星野源さんはこの重要性を教えてくれました。今回のAERA対談記事には、特徴があって。それは.... “喫茶店ではなく、会議室みたいなありふれた場所でメイクさんもスタイリストさんもカメラマンさんもマネージャーさんも誰もいなくて、本当に二人きりで” 話をするという点。 通常対談記事を書く場合には、対談をしている二人にインタビューアーやスタッフが同席して内容を記録・適宜質問をしていきます。しかし、それだと言わなければならないことが存在しているように感じて、発話者の間で”いかに正しいことを話すか”の大合戦になってしまうのですね。その状態ではなく、純粋にゲストの方の人となりを知りたいということで、このような「完全に二人きりの対談」にしたそうな。 実際、その成果がバッチリ出ていました。計11人の方と対談をされているのですが、話す相手によって全く違うテーマ・側面を引き出すことができていて全ページ見飽きない。好きな食べ物の話や日常生活の話まで。緊張している場所では話すことのできないような内容も沢山見受けられる。星野源の雑談力よ...驚きでした。 ◆ 星野源の、「力の抜き方講座」-モノづくり編 「働く男」を読んでいて感じたのは、どんなに真面目なことを話していても力を抜いた発言も忘れないこと。この、モノづくりにおける力の抜き方で”ヤラレター!!!”と思ったことが一つ。これも、「働く男」を読んでいた時のこと。この本の途中にはコード譜に手書きメッセージが書かれたページが続くのですが、よくよく見てみると、ページとページの間になにやら謎の文字があるんです。隠す程なのだから何か重要なメッセージが書いてあるのではないか!と思った私ですが、、、、思って目を凝らして読んで見たら。しょーもない言葉の羅列が。笑 悔しい。なんか悔しすぎる。でも、こういうところが星野源さんのユーモラスな部分なんだよな。たしかに、読んでいて一気に力が抜けました笑 一方で、 “ただ面白いことをしたいわけじゃなくて、やっぱり楽曲を伝えたいから。それはこの10年間で学んだこと。でも突き抜けることはしたいみたいな。” 2019年 朝日新聞出版 「星野源 ふたりきりで話そう」より印象 上にある通り、力を抜くことは、あくまでも他の人からの目を気にせずに表現をしていくためのTipsのようなもので、作品の質を下げるということとは全く異なる。そこを履き違えちゃダメだな。危ない。力を抜いても手は抜くな。肝に命じます。 ◆ おまけ-又吉さん最強説 前回のコラムで、尾崎世界観さんを取り上げさせていただきました。音楽に対する向き合い方含め相違点も多い尾崎さんと星野さんですが、どちらの著作にも又吉直樹さんが登場していました!びっくり! 尾崎さんは又吉さんの小説のファン。尾崎さんの書いた小説「祐介」が又吉さんの作品「火花」に似ていると言われたこともあったそうですよ。対して星野源さんは、「芸人」とか「作家」とか言った職種の枠にとらわれない働き方をしているという点で又吉さんを尊敬しているそう。 “いつも思うんですけど、みんな職種にとらわれ過ぎているんやないかって。僕は、職業はなんでもいいんです。小説やエッセイを書かせてもらっていますが、比重で言うたら「芸人」。でも、そんな枠組みなしに、自分のしたいことがそのまま職業になったらええのにと前から思っていたんです。” -2015年 文春文庫 星野源「働く男」より引用 又吉さんの中で好きになった部分は違えど、お二人とも作品の中で又吉さんについて書くなんて、面白いですよね。いつか三人の対談を見て見たいな。 一つの職種にとらわれずにやりたい&得意なことを仕事して次々と獲得していく。まさにこれから理想となっていく働き方ですね。私も、文章を書くこと/歌うこと/ラジオに関わることこれら全てを仕事にできたらいいのに。と思うことはよく有ります。自分の名前そのものが肩書きになる未来が欲しい。 でも、絶対に意識しないといけないことは、やったことの対価としてお金が発生していて、そこには責任があるということ。サービスを受けたいと思ってくれている人が存在しているということ。そしてやりたいと思っていることを実現させるために動いてくれる人が必ずいること。生半可にこれがしたい、あれがしたいと言い続けるだけでは、それはただのわがままになってしまう。又吉さんも、尾崎世界観さんも、星野源さんも、作品の質を愚直に求めているから・周囲の人への感謝を忘れないからここまでたくさんのキャリアを組み合わせることができているのです。このことも、肝に命じておきます。 ◆ 今日は、ここまで! ながーーーーい文章を読んでくださり、本当に本当に感謝しています。自分の伝えたいことを言葉にして表現することのみならず、見てくださっているあなたに少しでも響く文章が書きたい。そう思ってコラムに取り組んでいます。 まだまだ、自分では満足のできない内容ですが、私の文章構成能力の成長を一緒に見守ってくだされば。と思います。 --- 運営: Evening Music Records株式会社
アーティストと本 - 尾崎世界観の日常と本音を垣間見る回 その2 –
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アーティストと本 - 尾崎世界観の日常と本音を垣間見る回 その2 –

アーティストと本 - 尾崎世界観の日常と本音を垣間見る回 その2 - ◆ "アーティストと本"とは? こんにちは。Evening Music Recordsインターン生のずなこです。絶賛大学生中の20歳です。Evening Music Recordsは音楽関連のほっとなニュースを提供している訳ですが、ありがたいことに初の(ゆるゆる)連載企画を開始することになりました。 連載名は、アーティストと本。音楽アーティストの著作を毎週読んで感想を書き溜めていくというコラムです。考えや趣向を音楽で伝えることのできるアーティストがなぜわざわざ書籍を作るのだろう。そこには音楽では伝えきれなかった何かが潜んでいるはず。そこで著作と楽曲を比較して共通する場所、相違している場所を見つけ、ほんの少し、輪郭だけでもそのアーティストのことを理解した気になろう。そんなことを考えました。 第2回は、前回と同様クリープハイプのボーカル尾崎世界観さんを取り上げ、”尾崎世界観の日常と本音を垣間見る回”としました。どうぞお楽しみください。 ◆ “祐介”は、世界観のはんぶん ここからは、小説「祐介」メインのお話。冒頭ではこの小説について、過去を織り交ぜているという意味で半自叙伝であると書きました(一般的にもこう言われている)。読んでみると正確には過去と現在、そして事実と虚構を配合しているという意味での半自叙伝なのだと解釈できました。 ・バンドのベースとドラムが突如として姿を消してしまった話 ・スーパーでのアルバイト ・ライブハウスでのチケットノルマ ・一攫千金を狙っての遠征ライブ  大筋は尾崎さんの過去の出来事の羅列のようなので最初は「ストーリー展開も含めて、完全なるエッセイ本にしてみてもいいのでは...?」と思ってしまいました。でも、そうしなかったのは、彼の”素直じゃなさ”が関係していそうです。自分の身の上話は嘘とごちゃ混ぜにして小説という芸術作品として味わってもらいたかったのかもしれない。小説の中なら嘘でも本当でも関係なく受け止めてもらえるから。読み進めていくうちにそう感じ始めました。作品終盤にはこんな一節も。 “あなたの詩は比喩が多いでしょ?一度聴いただけですぐわかる程に。だから古くなるんだって。素直にまっすぐに、っていうのは基本じゃない?何をするにしても。だからね。どうしてもそうしたいなら、ある程度音楽でやってから、小説でも書けばいいじゃない。どこかの編集者にそそのかされて勘違いして、好きなだけ比喩を使って、小説でも書けばいいのよ。” -2016年 文藝春秋出版 尾崎世界観 「祐介」より引用 ◆ 捨てられない、飽きられない。ひかるものを探しつづける よくよく読んでみると、「あれれ、これクリープハイプの歌詞じゃない?」と疑わざるを得ない部分があるのです。そこには尾崎さんの思う、フロントマンとしての在り方が書かれているような気がしてなりませんでした。 “ボーカルが笑い始めて驚いたの。本当に信じられないくらいに全然声が出てなくて。最初は驚いたんだけど、その歌を聴いていたら、嬉しくてたまらなくなって来て、気がついたら自分が叫んでいたの。なんか認めてもらえた気がして。CDで、繰り返し繰り返しバカみたいに聴き続けてた曲の高いところで、CDとは程遠い掠れた声で情けなく裏返るその声を聴いてたら、窓からいつも見てた何もない絶望的な風景を認めてもらえたような気がして嬉しくて。気がついたらステージに向かって叫んでたの。ありがとうって。... よかったら、また遊びに来てね” -2016年 文藝春秋出版 尾崎世界観「祐介」より引用 この文章は主人公祐介が後に恋をする、風俗嬢瞳ちゃんが放ったセリフ。最後の、よかったら、また遊びに来てね という部分はクリープハイプの楽曲欠伸にも使われています。 “やっと気がついた時にはもう遅くて、残ったのは、今日あの人、大丈夫かな...最近声が全然出てないし...みるのも怖いけど、でも私はちゃんと見ていてあげないと...でも、これ以上ひどくなるようなら、もう辛くてついていけないかも知れない...そろそろ潮時なのかも...なんて言いながらライブに通う、修道院のシスター気取りの天から全て見てます的な客しかおらんくなるぞ、っていうことを言われて...ファンを疑うなとは言わないけど、ファンを信じるなよっていう締めの言葉に対しての俺なりの答えがそれでさ” -2016年 文藝春秋出版 尾崎世界観「祐介」より引用 この部分は、楽曲「社会の窓」の2番で歌われていることと非常によく似ています。祐介が思い切って京都へと遠征に行った際に出会ったバンドマンの放ったセリフです。お情けで曲を聴いてもらうようなバンドには絶対になりたくない 尾崎さんの強い意思が垣間見えます。 今回も、お読みいただき本当にありがとうございました。次回は、星野源さんを取り上げさせていただきます。楽しみにしていてね。 --- 運営: Evening Music Records株式会社
アーティストと本 - 尾崎世界観の日常と本音を垣間見る回 その1 –
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アーティストと本 - 尾崎世界観の日常と本音を垣間見る回 その1 –

◆ アーティストと本 -尾崎世界観の日常と本音を垣間見る回その1- ◆ こんにちは。連載始めます。 こんにちは。Evening Music Recordsインターン生のずなこです。絶賛大学生中の20歳です。Evening Music Recordsは音楽関連のほっとなニュースを提供している訳ですが、ありがたいことに初の(ゆるゆる)連載企画を開始することになりました。 連載名は、アーティストと本。音楽アーティストの著作を毎週読んで感想を書き溜めていくというコラムです。考えや趣向を音楽で伝えることのできるアーティストがなぜわざわざ書籍を作るのだろう。そこには音楽では伝えきれなかった何かが潜んでいるはず。そこで著作と楽曲を比較して共通する場所、相違している場所を見つけ、ほんの少し、輪郭だけでもそのアーティストのことを理解した気になろう。そんなことを考えました。 第一回は、クリープハイプのボーカル尾崎世界観さんを取り上げ、”尾崎世界観の日常と本音を垣間見る回”としました。どうぞお楽しみください。 ◆ にわかさんいらっしゃいコーナー 尾崎世界観とは?クリープハイプとは?どんな本書いてるの?そんなハテナマークだらけになっているにわかさんのために、説明を付け足します。 -クリープハイプとは? クリープハイプは日本の4人組ロックバンド。近年では映画「帝一の國」の主題歌を担当するなど、着々と知名度をあげています。生活感に溢れた比喩表現や、男女両方の視点から語られる恋愛観の豊かさが特徴的です。そしてクリープハイプの楽曲の作詞作曲を担当しているのが、フロントマン尾崎世界観さんです。 -尾崎世界観とは? 多くの人から言われる「世界観が」という曖昧な評価に疑問を感じたことから、このような名前に。独特な高音ボイスと文学的な言葉を綴るところが彼の秀逸なところ。読書・ヤクルトスワローズが好きだそうですよ。 -尾崎世界観、本も書いてるらしいよ。 尾崎世界観さんは、小説・エッセイ本など多くの書籍を出版しています。今回読んだのは、2017年5月25日に出版された日記集「苦汁100%」、それから2016年6月30日に出版された小説「祐介」。祐介は、尾崎世界観さんの本名。デビュー前の尾崎さんが実際に体験してきた出来事や抱いてきた感情を詰め込んだ半自叙伝。主人公はコンビニでアルバイトをする、売れないバンドマン。風俗嬢に恋をしてしまったり、夢を諦めきれず京都に行くもうまくいかず...そんなどうしようもない奴。暴力的な描写や性的な描写が多く、以前読んだ村上龍さんの「限りなく透明に近いブルー」への印象と類似しています。対して、「苦汁100%」は、2016年7月から2017年2月にかけて書かれた尾崎世界観さんの日記集。ミュージシャンではなく、一人の人間としての尾崎さんの様子が見えます。本作品中では、発売後の小説「祐介」に関する文章もしばしば見られました。 ◆ 世界観の言葉遊びは、”まぁいいか。”と思わせる魔法だ ー視聴者から受けたリアルタイムコメントについてー “1匹いたら100匹いると言われているゴキブリみたいに、どこかに潜んでいるはずの悪意に気づけないといけない。バンプオブチキン張りに、見えないモノを見ようとして望遠鏡を覗き込まないといけない” -2017年 文藝春秋出版 尾崎世界観 「苦汁100% 」より引用 尾崎さんの本を読んでいると、比喩表現をたくさん浴びることになります。尾崎さんはどうして比喩表現を使うのか。クリープハイプの楽曲は大好きで普段からよく聴いているのですが、その時には”本当のことを言いたくないという恥ずかしさと弱さを表現したいのだろう”と解釈していました。上の引用にあるように、ネガティブなことに対して比喩表現を多く使う傾向にあるため、”何かを隠すため”に使っているとてっきり思い込んでいたのです。 しかし、2作品を通して多くの比喩を浴びせられているうちに、なぜか少し笑えてきたんです。特に、ゴキブリとバンプオブチキンの例えにはついにやけてしまいました笑 クリープハイプの「二十九、三十」という楽曲の中に、”もしも生まれ変わったならいっそ家電にでもなって 空気清浄機とかなら楽してやっていけそうだな”という表現があるのですが、これも同じ。何かを伝えようとして、表現しようとして失敗して。それなら全てを鵜呑みにする存在になれたら。と思ったりする。それを、家電で表現しているところが、シュールで、なんとも言えなくて。まあ、なんでもいっか笑 と思えてしまう。いいことがなくて、肩を落としてしまう帰り道。そしたら、本当に肩を落として(=無くして)しまうあの曲も大好き。肩落として歩くなんてやめよう、おっかない。と思えました笑尾崎さんが比喩表現を使うのは、そうした気の緩みを作るためなのでしょう。そうであってほしいな。 ◆ なんか、いい。なんか、好きになれない。理由がなくても大丈夫。 “昼からスタジオでバンドリハ。そしてJ-WAVEへ。やっぱり J-WAVEが好きだ。好きな人が多いし、とにかくなんか良い。行くと元気になる。” -2017年 文藝春秋出版 尾崎世界観 「苦汁100% 」より引用 “そんな奴は信用できない。ちゃんと人を好きになったことが無いのだろう。大好きです。愛してる。と。大嫌いだ、死ね。は限りなく似ていると思う。” -2017年 文藝春秋出版 尾崎世界観 「苦汁100% 」より引用 尾崎さんは、”なんとなく好き”だとか”なんか好きになれない”そういった感情に素直な方なのでしょう。以前、ライブハウスに行った時、あるおじさんバンドに出会いました。そこで歌われていたのが、「なんかいい」という楽曲。論理的に良さを語ることができたら、それは他人を納得させることができるかもしれないし共感を得られるかもしれない。でも、なんとなくでもいいとおもうんだ。尾崎さんも、ちゃんと「なんかいい」を言える人でした。感情に支配されるタイプだからか、一日ごとにだいぶ心の調子や考えていることが違うのも、尾崎さんの個性で、すごく、いいなあ。(私自身、とても感情の起伏が激しいので、愛着を持ちました。) ◆ ぴぴー、今回は、ここまで! と、こんな感じでこれからもコラムを書きつづけていきます。最後まで読んでくださった方、本当に本当にありがとうございます。まだまだ未熟ではありますが、読み続けてくださったら、嬉しいです。 今回は尾崎世界観さんの(アーティストではなく、一人の人間としての)こころに注目したわけですが、次回はミュージシャンとしての在り方や彼の音楽と著作の共通点を見ることに重点を当てて記事を書くつもりでいます。 --- 運営: Evening Music Records株式会社