宮崎駿 ジブリから学ぶ。売れるアーティストと売るアーティストの違い
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宮崎駿 ジブリから学ぶ。売れるアーティストと売るアーティストの違いとは
私の友人にマッチングアプリのプロフィール欄に心血を注ぐ男がいる。
男はアプリをインストールした日から一週間以上いじくり回しているが一度もアカウントを公開していない。妙な黒歴史にならぬよう細心の注意を払い、自分の魅力が最大限伝わるよう自撮り写真の厳選から趣味等の説明まで抜かりなく作り込んでいた。もはや作品である。
自己紹介に関していい文章を書いてくれないかとスマホを渡されたので彼のひたむきな姿勢にならい、我ながら完璧なプロフィールを書き込み、なんとなく名前を「ムスカ大佐」にして勝手に公開したことがある。
後々かなりの喧騒で怒られたのだが、以外にもその見事なまでに整ったプロフィールと名前のギャップから想像以上にインプレッションが増え、なんやかんやとマッチングにこぎつけ男のアカウント運用は好発進となった。
”嵐”から見える売れるアーティストの特徴とは…
SNSが流行を作る今の時代、ブレイクするチャンスは至るところに存在し、知名度があまりなかったアーティストが急に大ブレイクすることも珍しくない。2020年TikTokを火付け役に瑛人が「香水」で大ブレイクしたことはまさにそのことを象徴する出来事であった。そのため多くのアーティストにとっては、以前と比べるとブレイクやメジャーデビューしやすい環境になってきているのかもしれない。しかし、一時期に爆発的にブレイクするよりも、長期間人気を保ち、多くの人に愛されるアーティストになることは非常に難しい。
多くのファンに深く愛され、その愛情を長期間保てるアーティストにはどのような特徴があるのだろうか。
私は、売れるアーティストの特徴は全て「① 人間性」「② ファンファースト精神」に集約されると考える。
そこで、本稿では日本の国民的アイドルグループの“嵐”がなぜ多くの人から愛されるアーティストとなったのかを紐解きながら、売れるアーティストの特徴について考えていきたいと思う。嵐を取り上げる理由は、嵐が長く売れたアーティストであるからである。彼らは21年間の活動の中で、少なくとも10年以上トップアイドルの座を保ち、その勢いを落とすことなく、活動休止に入った。実例を見ながら、成功の理由を考えることで、売れるアーティストのエッセンスを見つけることができると考えた。
▼ アーティストの人間性
嵐のメンバーは演技力や芸術性などあらゆる部門から評価されているが、多くのファンは彼らの人間性に惹かれたのではないだろうか。
テレビ番組で共演するお笑い芸人やジャニーズの先輩だけでなく後輩にも礼儀正しいというエピソードはよく話題になる。例えトップアーティストになったとしても、天狗にならずに常に謙虚で周りの人を尊重している姿には感服する。また、言葉選びが非常に上手で、彼らの為人から紡がれる言葉には多くの人の心を動かす力がある。これは彼らが現在多くの冠番組を持っていることにも関係しているだろう。
嵐は、今では大スターとしての地位を確立しているが、デビュー当時はCDの売れ行きが乏しく、体を張った深夜番組も終了してしまうなど長い下積み時代を過ごしてきた。しかし、いかなる時も努力を怠らず、どんな小さな仕事でも全力で取り組んできたことで今に至る。個々の人間性だけでなく、グループ内の仲の良さも有名で、そんな彼らが歌う曲には、五人の一体感から裏付けられた説得力や穏やかな空気感がある。嵐がオリコン週間ランキングで53作連続1位を獲得できたのは、曲自体の音楽性だけでなく、「嵐が歌う」ことに大きな価値があったのだろう。
このようにアーティストが音楽業界で生き抜くためには、音楽性の高さだけではなく、アーティスト自身がファンにとって長く応援したいと思えるような人間性を兼ね備えているかが重要になってくるのである。アーティストの人間性は、彼らの歌声、歌詞、サウンドあらゆるところに現れてくるのである。
▼ ファンファースト精神
嵐のメンバーは常にファンに対する感謝と尊敬の気持ちを忘れない。その気持ちが最も表れるのは、毎年行われていた5大ドームツアーである。
彼らは毎年ファンが楽しめる演出を取り入れ、全国をまわるコンサートを通してファンに感謝の気持ちを伝えることを何よりも大切にしていた。例えば、今ではB’zやAAAなど多くのアーティストが当たり前のようにコンサートで取り入れている「ムービングステージ」を考案したのは嵐の松本潤である。ムービングステージは観客の頭の真上を、演者を乗せて通過し、ステージが透明であることで観客はましたから演者を見ることができるようになっている。
これは嵐LIVE 2005 “One” SUMMER TOURで初お披露目された。当時客席に近づく手段は花道やゴンドラが主流であったが、松本はパフォーマンスをしながら客席を移動できる手段を模索した。きっと会場に足を運ぶ当時のファンの心の中には、できるなら嵐のパフォーマンスを近距離でみたいというニーズがあった。松本はファンが今求めている健在化されたニーズではなく、ファンが無意識に抱いている本音に耳を傾けることで、ファンの期待の斜め上をいくような演出を提供し続けてきた。そのため、ファンは想像を遥かに超えるコンサートの演出に心を揺さぶられ、次の年のコンサートに期待を寄せるようになるのだろう。
さらに、ファンファースト精神は嵐が活動休止を発表してからの活動にも表れている。
嵐はツアーの日程決定など重要な報告をするとき、全国に向けて記事がでる前に必ずファンクラブの公式サイトで本人の口から話すことを徹底してきた。2019年1月27日にもファンクラブ会員サイトで一番初めに活動休止が発表された。嵐ファンにとって衝撃が走った瞬間であったが、それと同時に発表まで一切外部に情報が漏れることなく、経緯をファンに丁寧に説明する姿には、ファンに対する誠意を感じた。その後、活動休止に向けてファンに感謝の気持ちを伝える期間を2年間設けた。ファンクラブ会員が全員コンサートに参加できるようにと「ARASHI Anniversary Tour5×20」は全50公演行われ、公演終了後には実際のコンサートで使われた垂れ幕のスワロフスキーが1粒ずつファンの元に届いた。活動休止までの2年間という期間はファンと嵐の信頼関係がさらに深まる時間となり、最後の瞬間まで嵐はファンファーストの精神を忘れなかった。
アーティスト活動は音楽を聴いてくれるファンがいて初めて成り立つものである。基本的なことかもしれないが、この事を忘れてしまうアーティストも存在する。アーティストがファンへの感謝の気持ちを常に持ち、どんな時でもファンを楽しませたいという精神を持つことで、ファンもその思いを受け入れ、アーティストに対するロイヤリティを高めていくのである。
▼ 最後に...
売れるアーティストの特徴は、「① 人間性」「② ファンファースト精神」であると述べたが、大前提として、パフォーマンスのクオリティの高さは必ず求められる。
しかし、どんなにパフォーマンスが優れていても、この2つの要素が欠けていれば、長く愛されるアーティストの地位を確立することはできないだろう。最近ではYouTubeなどの投稿サイトやTwitterなどのSNSの普及によって楽曲よりもアーティスト自身の容姿や人間性を視覚的に捉えられる機会が増えている。今後さらに、アーティストの内面は重要視されるようになるだろう。
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