Adoの「うっせぇわ」が社会現象と呼べない理由とは...?

石原 史彌( Evening Music Records )

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巷でAdoの「うっせぇわ」が話題になって久しい。

 

 

YouTubeのMusic Videoの再生数が、2億回に到達したらしい。耳に残る洗練された曲だなと思っていたが、まさかここまで行くとは思ってなかった。すごいの一言に尽きるのが本音だ。

 

また、同曲は、社会的なマナーや慣習にそって従うことを良しとする大人の主張に対し、”うるさい” の一点張りで3分20秒の間、けたたましく抗議し続ける "一種のプロテストソング(社会の不公平や不正を告発し抗議する楽曲)" と言える。

 

実際に、楽曲中で何回 ”うっせぇわ” というフレーズを歌っているかを数えてみたら、全部で21個あった。当たり前に存在する世のルールに対し、その非合理性を追求するでも、多様性を示すでも、新たな見方を提示するでもない。

 

 

攻撃手段はただ1つ。

 

「うるさい」

 

援護射撃として...

 

「あなたが思うより健康です。」

「私が俗にいう天才です。」

 

...など、心身の発育が順調であることを根拠として、21回にわたる ”うるさい” という論調を武器に、骨が見えるまで噛み付いてやろうという楽曲である。

 

誰に噛みついているのか私には図りかねるが、急所を外している様には思える。

 

 

Adoと尾崎豊の違い

 

 

さて、プロテストソングといえばやはり "尾崎豊" だろう。

 

高校在学中にデビューし、特に10代の頃は「社会への反抗・疑問」「反支配」などを表現した。校内暴力や学生による飲酒・喫煙が横行し、偏差値教育や受験戦争のひずみが露呈していた昭和の独特な時代世相と相まって社会現象となった。マスメディアは彼を「10代の教祖」と呼び、若者の代弁者として時代から求められていた。



そしてふと思った。

 

令和のプロテストソング「うっせぇわ」に対する時代の反応と、昭和の尾崎を聞いたあの時の時代の反応が明らかに違うのではないか。

 

一言で言うと、聞き手を巻き込んだ "社会現象になってるか否か" の違いである。

 

 

尾崎を聞いて、若者は盗んだバイクで走り出し、校舎の窓ガラスを叩き割ったらしいが、「うっせぇわ」を聞いた令和の若者は果たして何をするのか...。曲に従えば、やはり ”うるさい” と連呼するのである。根拠は健康と天才。「うるさい。抹茶フラペチーノは抹茶飲料だから」と、強引な四捨五入で健康をアピールし、それを片手に撮った30枚の写真から厳選した1枚をSNSに載せて「アフィリエイト・インスタグラマー」を名乗って天才を自称する。

 

 

申し遅れたが、本記事を書いている私は現在大学2年生の学生で、順調にいけばこの春で3年になる。

 

順調にいけば、就活も始まり出し、社会との接点が徐々に増えるのが大学3年生というものだ。社会へのステップとして1歩2歩と大人への歩みを実感する、というのがこの多感な時期の1〜2年における変化だろう。一応、令和の若者という立場で率直な感想を述べると、あくまで個人の意見だが、「うっせぇわ」とは時代批判というより思春期の過剰反応に近い様な印象を持った。

 

尾崎がもたらした社会現象を肌感覚では知り得ない為、この2者の対比に ”昭和と令和” の時代比較を落とし込むことは難しい。

 

しかし、実感として、Adoに対して向けられる若者の視線は、不満を代弁してくれた尾崎を象徴的存在として崇めた若者の視線の様な熱を帯びているとは思えないし、Adoがそれを望んでいる様にも思えない。

 

 

これらの違いはなぜ生まれているのか...。以下ではこの問いについて考えていきたい。

 

 

尾崎豊の苦しみの理由

 

 

なぜ尾崎のプロテストソングは、若者を煽動する社会現象になり、Adoのソレはならないのか...。

 

私が思うに、それは「ルールを取り巻く人物相関が変化した為」と考えている。

 

ルールというのは、作る人とそれに従う人の二項対立の構図になりがちだが、重要な第三のポストがあると私は思っている。それは「ルールを説明する人」である。「なぜ黒髪じゃなきゃいけないのか」と問う生徒と、「そういう校則。ルールだからだ」という先生の議論が摩擦を帯びながら平行線のままになるのは、この第三のポストが見えてこないからではないだろうか...。

 

「こんな校則には意味がない。改変すべきだ。」という訴えが一向に汲み取られない理由は、その先生がルールを ”作る人” でなくルールを ”説明する人” だからだと考えられる。昔の先生や教育委員会などの組織上部、ひいては文化や慣習などの曖昧な合意形成によって出来上がったルールは、複雑すぎて目の前の先生には100%納得のいく説明が出来ない。

 

この構造が見えないまま理不尽とも思える制限が続けば、必然的に大人社会への不満というガスが溜まり、そこに反支配を歌うソウルシンガー・尾崎が火をつければ、大爆発になるのは想像に難くない。

 

 

一方で、今の若者は不満が溜まるとどうするだろうか...。

 

答えは『インターネット』である。

 

誰もルールの構造や闇を説明しきってくれなかった昔とは違う。ネットには膨大な量の情報があり、テキストや動画などその媒体も様々で、自分にあった最適な手段で情報にアクセスできる。そこでは、あらゆる人があらゆる事象を説明してくれる環境が整っており、SNSなどで大きく共感を生んだ話題が、現場での現状見直しのきっかけになる例も多い。

 

それらが適度なガス抜きになっているので、プロテストソングも着火剤としての機能を失わざるを得ない、というのが私の結論だ。

 

勿論、見るだけでなく発信者になり易くなった事も、ネットやSNSの重要な側面であり、あらゆる人がクリエイターになれるのでコンテンツの絶対数は昔とは比にならない。以前には無かった様々なコンテンツ文化が発達しているという意味では、今の時代ならではの強烈なメッセージを歌うシンガーはこの令和にも多く存在している。

 

思うのだが、尾崎の苦しみは代弁者に徹した故のものでもあるかもしれない。誰かの気持ちを歌うことを求められ、それが内部化して自分の思いとすり替わったならば、自分が見えなくなるのは当然である。そうなったなら、もう誰かに助けてもらうしかない。それこそ音楽の出番だ。

 

 

一例だが、ヨルシカの『思想犯』という楽曲がある。

 

"他人に優しいあんたにこの心がわかるものか"、という訴求力の強い言葉から始まり、"死にたくないが生きられない だから詩を書いてる" というアーティストならではの苦悩なクリエイティビティが描かれる。Music Videoはアニメーションのストーリー仕立てになっており、強盗らしき人が素顔を隠すために日常的に仮面を付けているシーンが描かれている。

 

そして、最後のサビに入る3分10秒辺りで疲れ切った強盗は仮面を外すのだが、鏡を見て驚愕する。仮面の下に、もう一枚仮面があったのだ。その下にも、さらにその下にも様々な仮面が張り付いており、剥がせど剥がせど素顔が見えてこない。そのサビでの歌詞がこれだ...

 

君の言葉が呑みたい

入れ物もない両手で受けて

いつしか喉が潤う

その時を待ちながら

 

付けすぎた仮面に、素顔が乗っ取られるという隠喩と照らし合わせて、あくまで私が個人的に導いた『思想犯』という楽曲の解釈を尾崎にぶつけたい。他人の言葉を飲み続ける事でしか渇きを癒せなくなっていたなら、そして、それを自覚できていなかったのなら、逃げていい。

 

もしかしたら、と考えてしまう...。

 

”尾崎がヨルシカを聞いていたなら、歴史は変わっていたかもしれない。”

 

そう思っても、歴史にタラレバはない。だから、我々にできることは一つしかない。今を生きる、この瞬間と人に向き合う。命の意味がわからない人は、カンザキイオリの「命に嫌われている」を聞いてくれ。生きるのが辛い人は、森山直太朗の「生きてることが辛いなら」を聞いてくれ。天国の尾崎、あいみょんの「生きていたんだよな」を聞いてくれ。まだまだある。まだまだあるんですわ聞いてほしい曲が...。

 

ということで次回以降は...「〇〇なやつはこれを聞け」...的なのとか。「ヨルシカの楽曲、独断と偏見で鬼深掘り」「あいみょんを聴きすぎて彼女にフラれた話(実話)」...みたいな記事を書こうと考えています。

 

最後まで読んでいただき、有難うございます。

 

文:石原

 

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