肩の力を抜いて寄り添うR&B―ZIN新EP＆ビルボードライブが紡ぐ自分との対話

国井那由汰（EVENING編集部）

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公開日：2025年11月6日

ZIN（ジン）は、アーティストコレクティブSoulflexの一員としても活動しながら、ソロではR&B／SOULを軸に独自の音楽世界を築いてきたシンガーソングライターだ。

今回は、そんなアーティストZINにご登場いただき、音楽との出会いから、そして最新EP『JOJO』に込めた思いまで、じっくりとお話を伺った。

甘く伸びやかな歌声と、人生の悲喜こもごもを赤裸々に描くリリックで聴く者の心を揺さぶるZIN。ミュージカル劇団での活動を経て、R&B/SOUL、HIPHOPなどブラックミュージックに傾倒し、クラブカルチャーの中で表現者としての道を切り拓いてきた。

そして今、10月22日リリースの『JOJO』を携え、自身初となるビルボードライブツアーを開催。これまでの楽曲の特別アレンジも披露されるこのステージは、ZINの“今”を体感できる貴重な機会となる。

本特集では、ZINというアーティストの音楽的ルーツから、ステージ裏の素顔、そしてこれから描く未来まで、その“中身”にじっくりと迫っていく。

長年積み重ねたキャリアと最新EPへの想い

—— 国井　まず、直近の音楽活動について教えてもらえますか。

—— ZIN「音楽活動自体はもう結構長くやってて、2023年にファーストアルバムを出して、ワンマンツアーで全国を回り、ビルボードで追加講演をしました。地方でも呼んでくださる機会が増えましたし、コラボリリースも多く発表してきました。今年は自分の作品をまとめたものを作りたいなという想いがずっとあったので、EPを制作し2025年10月にリリースする予定です。」

舞台役者からクラブシンガーへ―音楽への転機

—— 国井　音楽を始めたきっかけや、現在のR&B・ネオソウルといった音楽スタイルに至った経緯はどのようなものなのでしょうか。

—— ZIN「学生の頃は、舞台役者みたいな演劇の方を目指していました。高校三年生まで福岡にいて、高校時代に地元の劇団に入って、ダンスと芝居と歌、全部レッスンに行っていたんですけど。大学進学を機に大阪に移って、そこで出会った人たちはクラブカルチャーの人たちが多かったり、自分の兄がブラックミュージックをよく聴いてる人でした。その影響もあり、自分もブラックミュージックを聴くようになって、クラブで歌いたいと。ストリートカルチャーやクラブカルチャーに興味が移り、19〜20歳ぐらいで初めて大阪のクラブやライブハウスで歌い始めたという流れです。」

—— 国井　Soulflexなどユニットのメンバーとして、ソロ・アーティストとして歌を届ける時では、制作プロセスやステージ上で特に意識している役割やアプローチの違いについて教えてください。

—— ZIN「グループで曲を作るときはリレー形式で書く場合もあります。それぞれが作り、プロデューサーが良い部分をピックアップして、パズルみたいにはめていくような作り方で、周りとの化学反応の中で生まれます。自分の作品は結構内省的なものが多いので、考えすぎてしまうのですが、一緒に作る作品は周りのエッセンスをもらいながら、楽しみながらできるっていう点がソロとグループの違いだと感じています。」

R&Bに立ち返る―新作EP「JOJO」制作の背景とコンセプト

Photo by Tomoaki Shimoyama

前作『CURVE』では、R&B、ポップス、アンビエント、アコースティックフォークのような様々なジャンルの楽曲が並んだオルタナティブなアルバムだった。新作EP『JOJO』は、ZINが思うなR&B／ソウルに絞って制作したとのことだ。

—— 国井　『GINGER』制作時からコンセプトを反映させ、『CURVE』のテーマを固めて曲を書き始めたように、今回の新作EP『JOJO』でも『CURVE』の制作時からコンセプトを定めていたのでしょうか。

—— ZIN「いや、それがむしろ『CURVE』をリリースしてツアーが終わってから、ちょっとした燃え尽き症候群になってしまったんです。アルバム制作とツアーが一つの大きな節目だったので、プレッシャーを勝手に感じてしまい、去年一年は結構悩みました。今年の春、5〜6月頃に自分のルーツであるR&B・ソウルにしっかり向き合ったEPを作りたいと思い、それ以降は割とスムーズに今やりたいことが明確になりました。」

また、新作EP『JOJO』は、R&Bの深みを携え、夜のドライブや恋人とのひととき、一人の夜に寄り添うサウンドを目指した。ゆったり聴ける楽曲は、一人でも着席で聴きやすいライブにもぴったりだという。

—— ZIN「今回は大人っぽい色気や夜のムードをテーマに、恋愛の機微を描いた作品に仕上がりました。」

ビルボードライブツアーに向けた意気込み

── 国井　では、今回のBillboard Live Tourは、R&Bを主体として進めていくようなライブになるのでしょうか。

—— ZIN「そうですね。過去の曲を織り混ぜながらライブ構成を組みますが、今回のテーマに近い、混ざりが良い曲達をピックアップして、JOJOの世界観を感じてもらえるような構成にしたいと思います。」

—— 国井　11月8日大阪、11月14日横浜のビルボードツアー公演の開催に向けて準備を進めている最中だと思いますが、現在の心境をぜひお聞かせください。

—— ZIN「フルバンドセットなので、全部生バンドで再現したり、新しくアレンジを加えたりする点で、どうなるんだろうっていうワクワクと、ちょっとした不安もあります。でも、ライブでしか聴けないものだと思うので、音源とライブの違いを楽しんでもらえるように頑張りたいです。」

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ZINが考える楽曲の立ち位置

—— 国井　これまでの作品から今回のEPに含まれる楽曲まで慰めになるような、ゆったり聴けるような曲をテーマに制作されているのではないかという印象を受けましたが、音楽活動される中で一貫したテーマがあるのでしょうか。

—— ZIN「そうですね。自分自身、そんなに明るい性格ではないですし、『CURVE』の制作時から曲を書くっていうこと自体が、自分にとってのヒーリングの役割を果たしていました。そういう気持ちで曲を書いていたので、自然とそんなにアッパーな曲は減っていって。もしかしたらその反動で次の作品とかすごい明るくなる可能性はあるとは思いますが、特にこの2〜3年は、お客さんが ”この曲良かったです” と言ってくれるものが大体ゆっくりした曲だったので、需要と供給が合ってるのかなという感覚です。」

ZINにとって、曲を書く行為そのものがセルフヒーリングになっているようだ。その延長線上で生まれた「If I Lose」には、同じ喪失を抱えたリスナーから「救われた」という声が寄せられており、自分の傷が誰かの癒やしとなる瞬間は、まさに音楽が持つ奇跡だと実感したという。

—— ZIN「『CURVE』の中に『If I lose』という曲が収録されているのですが、自分自身、初めて人の死っていうものを身近に感じた体験があったんです。2020年ぐらいからの2〜3年ですかね。『CURVE』制作直前ぐらいまでリアルに身近な存在の人が死と向き合っていて、その時の苦しさや、想いを書いた曲なんです。誰かのために書いた曲ではないのに、自分が感じたことを書いた曲なのに、リリース後に同じような体験をした方々から ”やり場のない気持ちが結構あったけど、この曲を聴いてすごく救われました” というメッセージを沢山もらいました。自分のもとを離れて誰かに寄り添うことができるのは、やはり音楽ならではだと感じて、自分自身も勇気をもらいました。」

—— 国井　音楽は、ご自身にとってどういう存在ですか。聞いてくれるリスナーにとって、どのようにあって欲しいですか。

—— ZIN「音楽やアートって、衣食住に入ってないもので、ぶっちゃけ無くても生きてはいけるじゃないですか。それでも、多くの人が、心を救われたり、人生を豊かにできていることが、音楽やアートの凄さだと思っています。なので、頑張ろうぜと気張るより、ふとした時に感じ取ってくれるぐらいの、あったら最高ぐらいのテンションで。聴いてくれてる人の人生にとって、それぐらいの立ち位置であればいいなと思っています。」

デジタルプラットフォームに依存し、いつ何が消えるかわからない世界だからこそ、楽曲は手のひらの中で儚く輝く花火のようだ。

だからこそ、ZINはあえて大仰なメッセージや押し付けを控え、「ふとしたときにそっと寄り添う」楽曲を目指している。その立ち位置は、小さな灯りが暗闇の中で確かな温もりを届けるかのように、日常の隙間を埋める存在なのかもしれない。

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